活動報告

日中産業科学技術交流シンポジウム基調講演

平成14年1月16日、中国北京市において第11回日中産業科学技術交流シンポジウムが開催され、「アジアにおける日中の情報戦略」と題して、基調講演を行いました。今回のシンポジウムでは、「21世紀における日中両国の更なる技術交流・環境強力の推進について」をテーマに、日中両国の政府、学識経験者から講演があり、日本からは、川口順子環境大臣(現外務大臣)をはじめ、7名の国会議員、産官学から多数の有識者が参加して活発な討議が行われました。

<font=b>アジアにおける日中の情報戦略

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本日は、中国の皆様方に熱烈な歓迎をいただき、そしてこの素晴らしいシンポジウムで講演する機会をいただきましたことに対し、心から感謝を申し上げます。

私は、先程講演をされた柳本卓治先生の下、衆議院の環境委員会の理事を務めております。また、自由民主党の経済産業部会長、そしてe-Japan特命委員会の事務局長を務めておりますことから、本日はIT問題を中心にお話をしたいと思います。
この分野において日本を代表する専門家である公文先生そして後藤先生が、この後講演されますので、詳細についてはその講演に譲りたいと思います。私は、政治の立場から、アジアにおける日本と中国がIT分野でどのような連携を深めていけばよいのかについて、お話しをさせていただきます。

<font=b>1.はじめに

現在、中国の皆様方は、大きな経済発展を遂げられておりますが、これは皆様方が構造改革を推進し、そして痛みを乗り越えて、様々な努力を積み重ねてこられた成果ではないかと思います。
そして、日本と中国の経済関係も、一層緊密化してまいりました。日本と中国の貿易額は、中国の統計の数字によると昨年一年間で877億ドルです。恐らく、それ程遠くない時期に、1000億ドルの大台に達すると思います。
この様に、中国と日本の関係は、これからも一層緊密化し、そして大規模なものになると予想されます。

<font=b>2.IT政策について

こうした状況の中、IT分野は、互いの国の「経済のフロンティア」を拡大していくことになります。この分野において、日本と中国が相互の協力を深め、関係を強化し、そして戦略的に取り組むことにより、とりわけ「アジアにおけるITの推進」をリードしていくことは、大変意義深いと思います。
具体的には、「技術基盤の整備」、「人材の育成」、さらには「互いの共通・共有の制度やルールの整備」、この3つの柱のもと戦略的に日本と中国が協力していくことには、大きな意義があると考えております。

<font=b>(第1の柱:技術基盤の整備)

第1の柱「技術基盤の整備」について、ITが社会で広く活用されるには、技術・システム開発、標準の形成、そして総合運用性確保への取り組みが大切です。これらの取り組みを進めていくにあたり、3つのポイントがあると思います。
第1のポイントは、「取引の安全性の確保」です。
とりわけオンライン上で、本人であることを認証する「PKIシステム」について、  国境を越えた共通の基盤を充実させていくことが極めて大切であります。このため、昨年6月「アジアPKIフォーラム」が結成され、PKIシステムの相互運用性の確保や普及のための活動を開始しました。このフォーラムにおいて、日本と中国は役員を務めており、互いの国が連携し、そして指導することにより大きな成果をだしていくことが、世界的に期待されております。

第2のポイントは、「次世代ネットワークの構築」です。
インターネットは、電話、データ通信、放送などが融合し、ネットワークとして発展していきます。しかし、インターネットでのアドレス不足は、日本と中国ひいてはアジア共通の問題として大いに懸念されるところです。日本においては、事実上無限のアドレスが可能となる、「IPv6」の開発普及により、この懸念を解消すべく様々な技術開発に取り組んでおります。また、v6対応のルータが商品化され、v6対応の商品サービスも開始されました。
日本と中国が協力し、IPv6のネットワーク、各種アプリケーションに関する技術 開発、そして標準形成をリードしていこうという動きがあります。こうした取り組みに より、アジアにおける次世代ネットワーク社会の構築をリードしていくことが極めて重要であります。

第3のポイントは、「各分野での応用」を力強く推進していくことです。
例えば、日本の経済産業省と中国の国家発展計画委員会との間で、1998年から遠隔医療、遠隔教育、環境監視、水害監視などの6分野において、先端的な情報システムを  開発するプロジェクトを実施中です。両国が協力して開発したこれらの情報システムについて、中国国内はもとより他のアジア諸国に普及することにより、アジアにおけるIT 技術の社会的利用促進が期待されております。
また、IT技術の積極的な活用は、輸出入の効率化においても大変期待をされております。わが国は、政府の貿易手続きシステムの電子化を進めるとともに、貿易金融EDI(TEDI)を開発・普及し、各国政府のシステムとの接続を確保していくことが必要です。  現在、わが国は、このためのプロジェクトを、日中韓アセアン経済大臣会合において提案しております。

第4のポイントは、次世代いわゆる第4世代の携帯電話の「標準の形成」に向け、日本と中国が協力していくことは、重要な問題であると考えております。

<font=b>(第2の柱:人材育成)

第2の柱「人材育成」について、ITの普及に伴い、IT人材の確保は必須の課題です。人材は「アジア地域共通の財産」であり、連携して育成するとともにその交流を図っていくことが、これからの大きな課題であります。こうしたことを推進していくためには、3つのポイントがあると思います

第1のポイントは、「アジア大のIT技能標準」を確実に策定していくということです。
日本においては、情報処理技術者試験を約30年にわたり実施し、IT人材の育成、  レベル認定、そして向上を図ってきた経験があります。アジアにおいてIT人材の育成を図るために、わが国の経験・ノウハウを提供することによりアジア各国におけるIT人材育成を支援していきたいと考えております。また、既に同様の試験を実施している国家間においては、それぞれの試験に関する「ITスキル標準」を相互に認証し、相手国の試験合格者について入国の用件の緩和を行い、IT人材の流動化を促進しております。
中国は予てより、IT技術者に対する試験を実施しております。日中両国の試験の実施主体である中国情報産業部電子教育センターと日本の情報処理開発協会は、試験基準の 相互認証について合意に向けた最後の調整段階にあります。今後、「アジア共通のIT  スキル標準」を策定し、日本と中国が中心になって推進していくことが重要であると考えております。

第2のポイントは、「アジアにおけるe-ラーニングのイニシアティブ」を確立して  いくということです。
IT人材の効率的な育成、新たなフロンティア市場開拓の観点から、「アジアのe-  ラーニング」の実現を図ることは大きな課題です。このため、e-ラーニングの相互の運用性の確保、コンテンツの充実により普及を図っていくことが大切です。
昨年9月、日中韓アセアン経済大臣会合において、わが国が提案した「アジアe-ラーニング・イニシアティブ」が、各国の賛同を得て正式なプロジェクトとして採択されました。中国においても、e-ラーニングに対する様々な取り組みが行なわれており、日本と中国が連携してアジアにおけるe-ラーニングのイニシアティブを推進していきたいと考えております。

第3のポイントは、「日中IT人材協力」です。
アジアでの取り組みに加え、日中両国の協力の拡大に貢献することを目的に、IT人材をさらに育成をしていくことが重要です。
日本においては、「顔の見える経済協力」を強化する方向にありますが、IT人材の  育成、交流の拡大はまさにこれに叶うものであります。現在、中国において、日本語が話せるIT人材を育成する幾つかの動きがあるとお伺しております。こうした中国の動きを踏まえつつ、中国からの研修生を日本に積極的に受け入れ、また日本からの専門家を派遣するなど、既に行われている協力を拡大するとともに、大学や研究機関での連携を強化するなどの様々な形で人材育成の協力を進めるべきであると考えております。

<font=b>(第3の柱:切れ目のないルール・制度整備)

第3の柱は、「互いが共通し、共有するルール・制度の整備」です。
電子商取引をはじめ、ITに関するルール・制度についても、各国での相違を可能な  限り少なくすることにより、「シームレス(Seamless)な環境」を作ることが大切であります。
具体的には、「電子署名認証法の国際的な相互承認」、「消費者保護」のためのマーク制度、とりわけ重要である「知的所有権」に関する制度、そしてその運用など様々な分野での取り組みが必要です。また、昨年末、中国のWTO加盟が承認されましたドーハの  WTO閣僚会議でも、電子商取引をめぐるルールについて検討することが決定されました。
今後、この様な分野においても、日中両国間の協力を拡大し、そしてルール・制度の整備・実施がこれまで以上に切れ目のないシームレスなものとなることが大いに期待されております。

<font=b>3.おわりに

以上、3つの柱を中心に、日本と中国のアジアにおける連携について話を進めてまいりました。これらのことを成功させるためには、日本と中国が本当の意味での「win-  winの関係」を確実に構築していかなければならないと考えております。
本年は、「日本と中国の国交回復30周年」という大きな節目を迎えております。この機会に、日中両国におけるIT分野での協力をさらに拡大し、アジア地域全体をにらんで戦略的に取り組みを強化していくことが重要であると思います。ITは、経済のフロンティアの拡大をもたらすものであることから、日中両国が共に利益を享受できる「win-  winの関係」を築くことが必要であります。私は、この関係の構築が必ずできるものと確信しております。

結びにあたりまして、今回わたくしたちを受け入れていただいた中国の皆様方、そして主催されました財団法人国際研修交流協会をはじめとする日本の関係者の皆様方に対し、改めて心より感謝を申し上げまして、私の講演を終わらせていただきます。
ご清聴いただき、ありがとうございました。