伊藤達也がメディアに登場しました!

朝日ニュースター『ニュースの深層』“日本経済再生の道を探る”

日本経済再生の道を探る

朝日ニュースター『ニュースの深層』

聞き手 経済産業研究所 研究員 中林美恵子氏

中林)副大臣という仕事はどういう仕事か。

伊藤) 事務方と一緒に裏方で、大臣を補佐する仕事だ。大臣がしっかり判断できるように材料を調える、政策面でのサポートがひとつ。もうひとつは、金融庁も法案を抱えているので、国会対応をやること。いろいろな委員会に呼ばれるので、大臣と手分けをして、朝から晩まで答弁しているというのが、日常的な仕事だ。

中林)金融再生プログラムの進捗状況は。

伊藤)昨年秋に、総理から不良債権問題を平成16年度中に終局させるという、強い決意があった。そこで、この問題を正常化させるために、金融と産業を一体的に再生していこうということで、3つの新しい枠組みを提示した。これが金融再生プログラムだ。まず、新しい金融システムの枠組みをつくり、十分に中小企業に配慮をしていくこと。次に、新しい企業再生の枠組みを作ること。ここで産業再生機構を提言した。3つめが、新しい金融行政の枠組み。市場の評価との整合性を十分勘案して、資産査定の厳格化、自己資本の充実、ガバナンスの強化をする。
私が就任して、大臣を支え、約1ヶ月でつくった。そして、実際に実務に落としていくための作業工程表を1ヶ月かけてつくり、現在はこのほとんどを実施している。

中林)十分計画どおり実行されているのか、それとも難航している?

伊藤)不良債権問題を正常化させていく道筋は十分つけられている。どういう視点で監督するのか、チェックをしていくポイントはどこにあるのか、ルールの中で不明確だった点を明確にした。金融機関の方々もこれを踏まえて一生懸命努力されているから、私は、16年中に必ず正常化すると考えている。
今、新しい変化が出てきている。たとえば、2兆円ちかい増資が行われてきた。銀行のコアな資本を充実させることは、金融システムを安定化させることになるから、私はこれを高く評価している。
ただ、自己資本を増強して何をするのかが、非常に大切なことだ。ひとつは不良債権に対し、正面から向き合っていくこと、そして、新しいビジネスモデルを構築し、収益を上げていく構造をどうつくっていくのかが問われている。
ひとつの流れは、中小企業に対して新しいビジネスモデルを構築していくこと。もうひとつは、投資銀行的な性格を強化して、大企業向けのシンジケートローンをつくるとか、フィービジネス(手数料収入サービス)をしっかり打ち立てていくこと。こうした方向性を具体的につくり上げることが、これからの銀行経営に問われている。

中林)ただ現実は、2兆円増資が評価されず、株価はかえって下がっている。どうしたら行政が鼓舞することができるのか。

伊藤)行政が、こうしなさい、ああしなさいというのは、護送船団方式。ここから先は、経営者の責任。どういう形でマーケットが評価してくれるような経営をしていくか、経営者の真価が問われているのではないか。

中林)なぜ、日本の金融機関はこのような難しい局面にあるのか。日本にはどういう難しさがあるのか。

伊藤)日本の場合、間接金融の比重がすごく大きい。バブルまでは右肩上がりで、土地は必ず上がる神話があった。その意味で、物的担保にかなり依存しており、経営者の能力や事業計画そのものを見た融資をしてこなかったというのが、大きな課題だ。
特に、中小企業に対する過剰保証、過剰担保は、非常に問題だと考えている。

中林)日本は不況で自殺者が多いというが、すべて担保に取られ、すべて自分の責任なので、自殺するしかないという、金融システムの問題でもあるのではないか。

伊藤)今まで中小企業と銀行とは、持ちつ持たれつできた。不景気の時は、運転資金を銀行に助けてもらうなど、中小企業の弱い財務体質を銀行は補ってきた。補う仕組みのひとつとして、包括的な個人保証、さらに親族保証、足りないと第3者保証まで求める。前近代的な責任の取り方だ。バブルが崩壊して、この仕組みが崩れてたにもかかわらず、責任だけが、中小企業の経営者にすべて圧し掛かる形になってしまった。この課題を何とか乗り越えていかなければならない。

中林)個人保証をなくしていくにはどうしたらいいのか。

伊藤)裏側には、低い金利とのバランスで、過剰保証がとられてきた。中小企業の経営努力をよく見て、担保や保証に頼らないで融資をする、そしてそれに見合った金利を設定していくことが重要。日本は欧米と違って、ミドルリスク、ミドルリターンの金融チャネルがほとんどない。銀行から借りられなければ、高利貸しに行くしかない。中小企業の多様な資金ニーズに応えられるようなチャネルを作っていく。

中林)地域金融機関で、上手くいっているところもある。

伊藤)都市銀行と地域銀行というが、法的枠組みのなかで差はない。慣習的に分けているだけ。銀行は横並びといわれてきた。金融庁や業界の状況を気にするのではなく、正面から利用者を見て、競争し、いいサービスを提供していくことが問われていくと思う。
地域銀行については、リレーションシップバンキングの将来のあり方として、金融審からの報告を受けてアクションプランを出した。地域銀行の機能を強化して不良債権問題を解決し、地域経済を活性化していくために大きな役割を果たしてもらいたい。

中林)過去になんども公的資金を注入してきた。なぜ、長いこと解決できなかったのか。

伊藤)いつか経済はよくなると思っていた。したがって銀行のバランスシートの中に溜め込んできてしまった。また、護送船団方式と揶揄されるように、金融行政に対する批判があったことも事実だ。
しかし、この問題に正面から向き合うということで、金融再生プログラムを提示した。金融機関も努力しているし、私どもも、その監督していく仕組みを明確にした。今回のプログラムに基づいて、15年の決算に反映させるということだから、大きな一つの山を超えていくことになると信じている。

中林)インフレにしてしまえばいい、という議論もある。私はまゆつばと思っているがどうか。

伊藤)魔法の杖はないんだと思う。企業がよくなり、産業全体の力をつけていかなければ、日本経済の再生はない。企業は努力している。それをしっかり支えて、応援していく金融のあり方が、今問われている。
金融再生プログラムにより、不良債権問題の解決の道筋はついた。次にやらなければならないのは、優良債権に目を向けること。企業のさまざま努力を評価し、優良債権を広げ、収益を生み出すビジネスモデルを打ち出していくことだ。担保や保証に依存せず、銀行のヒューマンリソースを投入し、産業界や企業の動きをよく見ながら積極的に融資していく、というステージに移っていくと私は思う。

中林)政治的な調整にあたってのご苦労は。

伊藤)構造改革のなかで一番難しい問題。これを乗り越えないと日本経済の再生はないし、金融だけでこの問題は乗り越えられない。総合的な政策、政策を総動員して、この難局を乗り越えていかなくてはなりません。政治の側にもさまざまな知恵がある、それを結集して、政策に変えて、両輪でこの問題の解決の実現をはかりたいと思っている。