活動報告

社会保険庁改革と政策金融改革が構造改革の試金石

1回、間を置くことになったが、引き続き、1月5日の日経新聞「経済教室」に掲載された竹中平蔵慶應義塾大学教授の論文に対し、コメントをしてみたい。竹中さんは、改革を進めるにあたって3つのポイント「戦略的なアジェンダ(課題)設定、官僚行政の詳細管理、長期的な政策の整合性確保」が重要としている。今回は、「官僚行政の詳細管理」に関し、竹中さんの指摘した社会保険庁改革と政策金融改革について、私の考えを述べてみたい。

まず、社会保険庁改革についてだが、私は、幹事長補佐の立場で、中川秀直幹事長の改革私案の策定に関与してきた。

竹中さんは論文の中で「社会保険庁改革で強制徴収を国税庁に『移管』する方向で話が進んでいたはずが、急に『委託』という言葉にすり替わった。権限委譲を伴う『移管』とそうでない『委託』では本質的に異なる」ため、「わずかな言葉の差し替えで、残念ながら社保庁の六分割案は画竜点睛を欠くものになった」と断じている。

これは、大臣として事務方の巧妙な抵抗と戦ってきた経験によるものだろう。確かに「金融再生プログラム」の策定にあたっては、細かな文言にいたるまで、正副大臣が事務方と濃密な調整を行った。当初の政策目的を達成するためには、改革の考え方を行政の実務に落とし込むことが重要であり、そうした観点から、プログラム策定の後も、工程表を固め、それを指針として不良債権処理を加速させてきた。

しかしながら、社会保険庁改革の本質は、公的年金に対する国民の信頼を取り戻すことにある。度重なる不祥事により、社会保険庁に対する国民の憤りは、公的年金そのものに対する不信へ根深く拡がってしまった。移管をして「歳入庁」が実現したとしても、問題を抱えた体質の社会保険庁が丸ごと移行するだけであり、看板の架け替えに終わっただろう。これでは、社保庁の焼け太りだ。

一方、この六分割案は、社会保険庁を細かく分割することでできるだけ民間にゆだねられる業務を切り出していくことを狙っている。つまり、社会保険庁を実質的に解体するものなのだ。公的年金にかかる財政責任・管理責任は国が担うものの、その運営に関する業務(年金の適用・保険料の徴収・記録・管理・相談・裁定・給付)に関しては、民間へのアウトソーシングを積極的に進める。また、年金新法人の職員には外部からの採用も積極的に行い、これまでの職場体質を一掃をはかっていく。トータルとして公務員の数は減り、民間の血が入ることによって国民へのサービスは向上する。本法案については、設計された具体的な改革プランが骨抜きにならないように監視すべきである。

社会保険庁改革を契機として、厚生年金、健康保険、労働保険、源泉所得税などについての手続きを共通化し、簡素化することも検討されるべきだ。縦割り行政の垣根を越えた業務の見直しを徹底し、手続きの共通化、簡素化が実現すれば、ワンストップサービスが可能になり、すべての企業・団体にとって社会保険や税に関わる事務負担の短縮になる。もちろん、行政もスリム化し、国民負担も小さくなる。こうした視点を加えて改革を加速していきたい。

次に、政策金融機関の具体的な制度設計について、竹中さんは、「日本政策投資銀行と商工組合中央金庫の『完全民営化』や存続政策金融機関の一機関への統合についての骨抜きは許されない。日本政策投資銀行などの民営化では、民間人経営者を任命するとともに政府出資のない商法上の一般法人に、できるだけ早期に移行させねばならない。また民間とのイコールフッティングの観点で、政府による準備金の支出があってはならない。存続政策金融機関が国際部門を子会社化することが将来的にもないようにする必要もある」と指摘している。また、草野厚慶大教授も1月16日の日経新聞「経済教室」に、『政策金融改革 監視怠るな』と論文を寄稿している。

私もまったく同感である。

政策金融改革の原点は、(1)「官から民へ」の改革を推し進めること、(2)業務の統合により効率的で総合的なサービスをワンストップで国民に提供することだ。政策金融改革については、昨年、大枠ができたが、改革を完成する上で、現在非常に大きなリスクに直面していると認識している。統合が予定されている組織では往々にして、将来に向けた前向きな取り組みよりも、既得権益の温存のための内向きの勢力争いに多くのエネルギーが注がれる。他方、新しい組織の将来像を描くことができない想像力のないマネジメントの下、選択と集中が行われない場当たり的な運営が行われ、混乱の中でいたずらに貴重な時間が過ぎ多くの運営ノウハウと人材が散逸していくリスクもある。

法案担当者の説明を聞いても、「政府・与党で合意したことを法案化した」と説明するだけで、上記の懸念を払拭する説明はない。そればかりか新政策金融機関が「民業の補完」に徹するよう、安易かつ節操のない融資が行われないための具体的な措置は何かという問いに対しても、明確な答えが返ってこない。担当者の中には、以前金融庁でともに汗を流し、民間金融機関に改革を促して金融再生に力を尽くした仲間もいる。とても同じ人物とは思えない取り組みに、思わず声を荒げてしまった。彼らには、当時の志を思い起こし、奮起してもらいたいと強く願っている。

政策金融改革が「仏をつくって魂を入れず」ということにならないよう、むしろ今年こそが正念場である。民営化される機関や公営公庫は早急に新しいビジネスモデルを確立すべきだ。また、他の民間とのイコールフッティングの監督体制に早急に移行しなくてはならない。「民業の補完にいかに徹するのか」、「中小企業のニーズにキチンと応えられなかった業務体制をいかに統合・改善するのか」というこれまで政策金融に向けられた非難にどう応えるのか。外部の声を反映するためのより強力かつ具体的な仕組みの創設が必要だろう。

これらは今国会に提出される法案には書かれてはいない。なぜなら、民営化される機関の経営内容については、事細かに書き込むことは適切ではないからだ。しかし、これらの機関は自らの判断で、早急にビジネスモデルの確立に取り組む必要がある。竹中さんの指摘にもあるとおり、まず、最初にやるべきは「人」を得ることだ。現在、各政策金融機関の総裁や理事等の任命は、各省庁が行っているが、これほどの総合的な大改革の場合には総理のリーダーシップの下、内閣が一丸となって取り組むべきである。そして、民営化される機関のマネジメントは、当然のことながら、民間からの人材が中心となるべきだ。関係省庁の監督は最低限度とするのだから、役所からの人員も最低限度とするのは当然だろう。

社会保険庁改革と政策金融改革は、官の抵抗を廃して構造改革が進められるかどうかの試金石である。ぜひ、官邸や法案を主管する厚生労働大臣、行革担当大臣そして経済財政担当大臣に強い指導力を発揮してもらいたい。