活動報告

「米国・内国歳入庁(IRS)の改革の成功から学ぶ」

「計数上の業績をよく見せかけるために、意図的に弱い納税者を狙い撃ちする」
「職員は納税者の抱える問題を解決できない。問題を解決するためには更なる電話や手紙が必要」
「個人的な記録を正当な権限なしに覗き見」
「毎年徴収した税金の行方を追跡できていない」

これらは、チャールズ・O・ロソッティ著「巨大政府機関の変貌」からの引用であるが、10年前までの米国の内国歳入庁(IRS)で実際に起きていたことだ。社会保険庁での醜態と酷似してはいないか。
あいまいな説明、継続性のない事務・・・・ずさんな税務行政によって、国民の生活が長期間にわたり翻弄される悲劇はたびたび起きた。
年金財源となる社会保障税も集めていたIRSは、年金給付を担当する社会保障庁との間で多数の年金記録の不一致を引き起こした。両庁のデータの突合せは結局8年間もかかった。このままの社会保険庁を放置すれば、IRSで起きた理不尽で許しがたいことが日本でも多発するだろう。社会保険庁改革の必要性を改めて強く感じた。
97年、クリントン政権下でIT企業の経営者として活躍したロソッティ氏は民間人としては初のIRS長官に就任。再生さえ危ぶまれた巨大組織の改革を断行した。国民のための組織への変革を目指し、批判に左右されること無く、愚直に一体的な改革を継続した。国民の信頼を取り戻し、予算、定員を増やすことなく、業務効率の大幅な向上に成功した。

<抜本解決に向けた政策パッケージの重要性>

特に印象に残ったのは、差し迫った問題を解決しつつ、同時に大きくて長期的な改善につながる抜本的な改革を行ったからこそIRS改革は成功したという点。
社会保険庁問題でもそうだが、野党から、また、内部告発を通じて不都合な真実はどんどん出てくる。また、責任追及の要求も繰り返される。それぞれの個別の問題に対処することも重要だが、八方美人では真の問題が発見できないし、受身的、泥縄的な対応では組織が疲弊するだけで改革は進まない。
組織、業務運営、情報技術について問題点を把握し、顧客の要望に沿った最新のものへと転換するためには、長期的・一体的な政策パッケージを用意することが重要だ。
安倍政権では国民のために記録番号の照合など、差し迫った問題に緊急の対応を進めると同時に現在政府に置かれている検証委員会で業務体制、コンプライアンス、システムを検証し、一体的に問題解決に取り組んでいく。

<社会保険庁職員諸君にも大いに期待する>

IRSは官の組織として改革が行われたが、社会保険庁の改革は分割民営化で行う。親方日の丸意識の下、異常な労働協約が存在し、サボタージュが日常化する組織なので、民営化は避けられない。
顧客重視主義の浸透、適材適所の人事配置、外部からの人材登用、正しい業績評価とインセンティブ、現場での状況把握、組織内外とのオープンなコミュニケーション、ルールや命令よりも、正しい組織統治、リーダーシップ、方向性と権限の付与など、IRSで取り組まれたものは国民年金機構でも課題になるべきものだ。
ロソッティ氏就任当時の野党・共和党はIRSの問題を政治的スローガンにして世間の注目を集めることに利用していた。どこの国でも野党はいつも批判するだけだ。長期的視点で真の改革が成し遂げられるのは安倍政権なのだ。
ロソッティ氏は著書の結びで、IRS改革のより深い成功の理由として次のように記している。
「IRSが変わらなければならないことを理解し、改革を起こすのに身を投じる勇気・技量・公共への献身精神を持った人々が、IRSの内外に大勢いたことによる」
社会保険庁の内部にもこのような有能な人は多くいると信じる。社会保険庁職員で、年金機構に移る人々には志高く、国民のための改革に協力してほしい。