活動報告

米、金融規制へ。日本が目指すべき方向は

米国の大手金融機関は、トレーディング業務やファンド投資で大きな収益を上げている。金融の各市場がリバウンド局面を迎えるなか、ほぼゼロ金利でドル資金が調達できるのだから、儲からないわけがない。米国の強欲な金融マンたちは、さっさと公的資金を返済して高額のボーナスを復活させた。1月21日オバマ大統領は、そのあつかましさに怒り、納税者の批判を鎮めるためか、新たな金融規制案を発表した。

予想を超える強力な金融規制案は、主に二つの柱からなる。第一に、現在の預金規模制限(上限10%)を負債の規模に拡大して、合併や買収を通じた「大きすぎてつぶせない」巨大な金融機関を認めないということ。

もう一つは、預金を取り扱う金融機関がヘッジファンドまたはプライベートエクイティ・ファンドを所有・投資・支援すること、あるいは顧客の立場と無関係な利益追求型の自己勘定取引を行うことを禁止するものだ。ボルガー元FRB議長が提案したことから「ボルガー・ルール」といわれているが、銀行の大きな収益源を奪うことになるので、反発を呼んでいる。

この規制案がどのように法制化されるのか。オバマ提案に先立ち議論が進んでいた米国議会の最大の関心事は、今、雇用にある。「銀行叩き」よりも「トヨタ叩き」のほうが国民受けするのだろう。また、かりに提案どおり強い規制となれば、ニューヨークから米国外に金融取引が大量に逃げ出すことになりかねない。したがって、肉食系の金融マンに対する警告に重点を置き、規制の中身は、結局は金融当局の裁量にゆだねられる部分が大きくなるのではないか。いずれにしても、自らの手でルールを作ろうとする米国らしい対応だ。

さて、日本はどうか。オバマ提案が想定する銀行像は「日本の銀行」に近いとの印象を持つ。だからといって、今の日本の金融ビジネスモデルが世界的に高く評価されていると考えるのは早計だ。大手6行の2009年4月~12月期の決算では、利益の水準はピークの3割どまり、低水準に甘んじている。

今後、日本の金融が目指すべき方向は、実体経済を支える機能を十二分に発揮しつつ、金融自体が日本の成長をリードする存在になることだ。そのためには、成長センターであるアジアのための効率的な金融市場を提供し、さらに、国際的な業務を強化して、アジアの成長に貢献する必要がある。その際、3つの取組みが求められる。まず、現地に密着した業務の展開だ。現地通貨の受け入れ業務や現地政府の産業育成策への協力、そして現地銀行との連携による個別融資などにも応えていく。現地の金融を担う人材の育成も重要な点だ。第二に、大口融資先の経営状況や為替、ナショナルリスクなど、アジアや全体を見た東京本店のリスク管理。第三は、アジアにおける金融外交・対話の展開を日本が主導していくことだ。

残念ながら、今の鳩山政権にはアジアにおける日本経済の役割といったマクロ的な視野がまったくない。だから、鳩山総理は郵政を実質国有化に戻すなど時代錯誤の政策を決断するのだ。

過去を振り返ると、10年ごとにバブルがはじけている。したがって、10年後はアジア発の金融危機が起きるかもしれない。危機を未然に防ぎ、アジアでの危機管理体制を確立しながら、成長をリードしていくために、日本が前向きな視点で行動できるか。それが試されている。