伊藤達也がメディアに登場しました!

『法律文化』3月号 金融再生プログラムに関するインタビュー記事

「金融再生プログラムが目指す
日本再生の
アクションプログラム」

『法律文化』2003年3月号掲載記事より

聞き手:株式会社 東京リーガルマインド代表取締役 反町勝夫氏

金融再生プログラムの柱

反町:不良債権問題についての基本的な認識は。

伊藤:現在、日本の金融機関の不良債権比率は8%を超えており、経済構造改革の最大の関門の一つです。小泉首相から、今の日本の経済が直面している不良債権問題を何としても解決せよ、との強いご指示がありました。その要請に応えるべく、昨年10月30日、金融再生プログラムを策定しました。平成16年度には、主要行の不良債権比率を現状の半分程度に低下させて正常化を図るとともに、構造改革を支える強固な金融システムを構築しようというものです。あわせて作業工程表を昨年11月末に公表し、現在行政としての具体的な行動を一つ一つ積み重ねているところです。:不良債権問題についての基本的な認識は。

反町:金融再生プログラムの内容について説明してください。

伊藤:三本の柱で構成しました。金融システム、企業再生、金融行政で、それぞれの新しい枠組みを提示したものです。

一つ目の新しい金融システムの枠組みとは、国民が安心できる金融システムを構築すること、また政府と日本銀行が一体となって不良債権問題の終結に向けて取り組むことです。

中小企業は日本経済の根幹をなす重要な存在であり、その再生なくして日本経済の再生はありません。かかる認識から、中小企業に対する資金供給の円滑化を図ること、金融機関による不当な貸し渋り、貸し剥がしが発生しないようにモニタリング体制の強化などを行うこと、さらには中小企業のさまざまな資金ニーズに応えていける新しい金融のチャネルをつくり上げるため、銀行免許認可の迅速化、中小企業貸出信託会社の設置などを検討しています。

二つ目の企業再生の枠組みは、整理回収機構の一層の活用であるとか、企業再生のための環境整備を関係府省と連携しながらさまざまな施策を講じていこうというものです。

三つ目の枠組みが、新しい金融行政の枠組みをしっかり動かしていこうということで、それについて三つの柱を提示しました。まず金融機関の自己資本の室を実態を見極めつつ新の充実を図ること、そして金融機関経営のガバナンスを強化することです。

反町:産業再生機構については、金融再生プログラムとの整合性という点を含めて、注目が集まっています。

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伊藤:もちろん不良債権は、金融機関の問題に止まるものではなく、その裏側に過剰債務に苦しむ多数の企業の姿があるわけです。不良債権と過剰債務の問題は一体として解決しなければなりません。これには根気がいる作業ですが、一つ一つ地道に取り組んでいかなければなりません。また、事業再生はあくまで民間主導が基本です。産業再生機構はそうした環境を整備する一つの仕組みであり、これが呼び水になって民間主導で不良債権問題が解決に向けて動くことを期待しています。

反町:デフレ対策のあり方については。

伊藤:総合的な政策が体制津です。デフレにはいろいろな性質があります。ひとつはバブル崩壊に伴う資産デフレで、これには正面から解決のため対峙しなければなりません。

反町:税制改革は。

伊藤:具体的には、バブル以降、不動産に関わる税が厳しいものになっていますから、住宅税制・土地税制を見直すことで流動化を促進するということです。証券にしても市場は低迷しているといわざるを得ません。税制は有効な政策手段であり、金融/証券税制の分野でもまだ改善の余地は残っていると思います。

その資産デフレとともに国際的な経済競争の結果としてのデフレがあります。経済のグローバル化に伴い、良いものが安く日本に入ってくることによるデフレです。これについては結局、国内の産業構造を変えていくということに尽きるのではないでしょうか。デフレの中でも、消費者、利用者に支持されるサービスや商品を提供できる産業構造への転換を助ける政策です。具体的には、規制改革の推進、あるいは産業競争力の強化ですが、ここも税制が重要です。今回も研究開発費の減税やIT投資を促進していく減税策を打ち出していますが、産業構造改革を支援していく税制のあり方については、引き続き検討が必要だと思います。

反町:金融面のデフレ対策は。

伊藤:日本銀行が量的緩和によって銀行に資金供給をしていますが、銀行から事業者側への資金の流れにおける問題、いわゆる「金融の目詰まり」がある。それは不良債権に起因しているという指摘があるわけです。私たちも、金融の資金仲介機能を強化して、信用創造をより強力にできる形にしなければならないと認識しています。

国の役割と自治体の役割

反町:金融再生と産業再生の進め方について。

伊藤:もちろん政治の役割の重要性は心得ていますが、私は最終的には、金融も産業も、個々の企業の努力こそが鍵を握っており、経済の回復はあくまで民間主導でなければならないと考えています。民間の活力を大切にしながら、その潜在力を引き出す。そういう観点から政策を組み立てていくべきであろうと。

特に私たちは金融を担当しているわけですから、中小企業者の努力をしっかり応援していく金融のあり方の構築が求められていると考えています。また金融機関の方々には、ぜひ中小企業の経営者のチャレンジを評価して、応援していける審査能力、資金仲介機能を高めていただきたい。

反町:自治体の役割ですが、中小企業の活性化を図ろうとしている自治体が増えており、「コミュニティ・ビジネス」という事業を民間に委託しています。このなかで中小企業診断士や税理士などさまざまな専門家が中小企業のサポートを始めているようです。

伊藤:それぞれの中小企業の持つさまざまな価値を評価し、潜在力を引き出すには、そうした専門家のネットワークは大きな役割を果たします。

もうひとつ自治体に是非努力していただきたいのは、これまで自分たちが抱えてきたサービスを民間に開放していくことです。行政のアウトソーシングを積極的に展開して、それに地域の経済戦略を上手く重ね合わせて実施していくことが、これからの自治体の経営では大変重要な産業政策であるはずです。

「フリーダム・トゥ・フェイル」

反町:中小企業に対する制度的なサポートということでは、個人保証の見直しがあるのではないでしょうか。

伊藤:おっしゃるとおりです。中小企業の経営者は銀行から融資を受けるにあたって個人保証を求められますし、場合によっては第三者の保証も求められる。本来は有限責任である株式会社や有限会社も、実質的には無限責任に近い形になっています。

私自身、政治の仕事をさせていただく前は、零細な企業を経営しておりましたが、やはり個人保証を求められ、連帯保証をお願いしなければならない中で経営していました。日本の中小零細企業の経営責任のとり方に、あまりに前近代的側面があるのは実感としてあります。

反町:経営者に懲罰的な扱いをして、能力や経験を無にするより、再度起業してもらうとか、経営手腕を発揮してもらうという視点が必要です。

伊藤:日本では開業率より廃業率のほうが高い状況がありますが、あまりに高い経営上のリスクがそのネックの一つになっていることは否めない事実でしょう。

シリコンバレーには「フリーダム・トゥ・フェイル」という言い方があります。これは責任の放棄を示す言葉ではありません。失敗の経験を高く評価して、再チャレンジできる仕組みをしっかりつくり上げているところにシリコンバレーの活力の根元があります。日本にも、一度失敗したら人生台無しというのではなく、何度でも挑戦していける環境を整えることは大切です。私は、日本人の中にチャレンジ精神が相当強く存在していると信じています。歴史上幾度となく大変な困難に直面しながら、それを乗り越えてきたのですから。