伊藤達也がメディアに登場しました!

Cabiネット

政府広報誌「cabiネット」2005年2月1日号

活力ある金融システムへ

構造改革の中でも難関といわれ続けてきた不良債権問題。
しかし、主要銀行の不良債権比率が回復するなど、
日本の金融事情は緊急対応の時期から脱却しつつあります。
そうした変化を背景に、政府では「金融改革プログラム」を昨年末に発表しました。
これまでの「安定」重視から「活力」重視の金融施策へ・・・。
転換点にある金融システム改革について、伊藤大臣に聞きました。

不良債権処理から、新たな金融システムづくりへ

――不良債権問題が強調されてきたこれまでの金融行政ですが、昨年末に発表された「金融改革プログラム」では“安定から活力へ”と視点が変わってきています。まず「金融改革プログラム」が策定された背景や知友をお聞かせください。

伊藤 「金融改革プログラム」を策定した理由は、金融をめぐる局面が変化してきた、同時に経済社会の環境が変化してきた。こうしたことに対応していく必要があります。

具体的には、経済構造改革最大の関門と言われてきた不良債権問題への緊急対応からようやく脱却し、未来志向の金融システムを構築できる局面に入りつつあるからです。また同時に、インターネット取引の増加、少子高齢化や国際化の進展など、そうした変化に対応するために、今後2年間の金融行政の指針として「金融価格プログラム」を策定しました。

――「庶民的な感覚」でいきますと、あれだけ莫大な不良債権を本当に解決できるのだろうかという印象もあったのですが・・・。

伊藤 日本の経済を再生させていくためにも不良債権問題を解決していくことが非常に重要であり、そのために2002年に「金融再生プログラム」を策定して、今日まで全力で推進してきたところです。その結果、昨年9月期の主要行の不良債権比率が4.7%まで低下しました。平成17年3月期までに不良債権比率を半減するという目標の達成に向けて順調に進んでいます。

――そうした局面の変化の中、「金融改革プログラム」は何を最大の目標としているのでしょうか。

伊藤 改革プログラムでは、まず、金融サービスの質を向上し、利用者にとって満足度の高い、そして国際的にも評価されるような金融システムというものを「官」の主導ではなく、「民」の活力によって実現することを目標としています。

利用者の立場になって、“いつでも・どこでも・誰でもが、安心して多用な金融商品やサービスの選択ができる金融システム”をつくりあげていきます。

こうした取り組みを私どもは“金融サービス立国への挑戦”と呼び、利用者の方々の満足度の高い金融システムを、関係者の方々と協力しながら実現していきたいと思っています。

活力ある金融システムづくりをめざして

――安定から活力増進へ、活力ある金融システムづくりにはどんな点が重要だとお考えですか。

伊藤 私は、活力ある金融システムを創造していくために大切なキーワードが3つあると思っています。つまり「競争」(Competition)、「法令等の遵守」(Compliance)、そして「利用者重視」(Customer)です。この“3つのC”を大切にし、改革を進めていきます。

その具体的な内容としては、第1に、利用者のニーズを重視し、利用者保護を徹底していくことです。第2に、IT等をもっと戦略的に活用して金融機関の競争力を強化していくことです。そして第3として、国際的に開かれた金融気システムを構築すると同時に金融行政の国際化を図っていこうと考えています。国際社会から見ても魅力的だと映る金融市場をつくり上げていく必要があると思います。特にアジアの中でのプレゼンス(存在感)を高めていくことが大切になってくるでしょう。

――利用者ニーズの重視と利用者保護の徹底として、どのような具体策をお考えですか。

伊藤 銀行、証券、保険が提供する金融商品・サービスの販売チャンネルが拡がったり、逆に1つの金融機関に立ち寄るだけで多様なサービスを受けることができれば、今までより便利になります。このように利用者の利便性の向上につながるように環境を整備していきます。

一方で利用者保護を徹底させていくために、時代に合った利用者保護の法律的な枠組みをつくっていく必要があります。私どもでは「投資サービス法(仮称)」という形でルールづくりを検討していきたいと考えています。また、利用者の方々から金融商品やサービスに関する苦情、相談を一元的にできる窓口として「金融サービス利用者相談室」を、金融庁内に設置する予定です。

さらに、いま大きな社会問題になっている偽造キャッシュカード犯罪のような問題にもしっかり対応していきます。

――ITの戦略的な活用は、金融サービスでも大きな変化をもたらすのでしょうね。

伊藤 すでにインターネットを通じた金融商品や金融サービス取引の比重が高まってきています。IT化には2つの効果がりまして、1つはサービスが多様化し、利用者にとって利便性が間違いなく向上していきます。そしてもう1つは、金融機関にとってはコスト競争力が高まることです。ITは時間や空間の制約を取り除くという大きな効果を持っています。ITを金融の世界でも道具として積極的に活用していき、価格優位性のあるサービスを提供できる基盤の整備がこれから重要になってくるでしょう。

地域経済の再生・活性化に貢献できる金融システム

――「金融改革プログラム」で同様に重視している「地域経済の再生・活性化に貢献できる金融システム」とはどういったものなのでしょうか。

伊藤 地域経済の再生や活性化に貢献できる金融システムは、地域の金融機関と利用者の方々の長期的・継続的な関係の中で培われるものです。例えば、借り手企業の経営者の資質ですとか、事業の将来性などに関する情報を活用して、融資や金融サービスを提供していく。いわば、地域密着型の金融モデルをしっかりとつくり上げていくことが重要です。これを私どもは「リレーションシップ・バンキング」と呼んでいます。こうした機能をしっかりと発揮できる金融システムを構築していくことが、地域再生・活性化には必要です。

――その担い手である中小の地域金融機関にはどんな期待をされているのでしょうか。

伊藤 例えば事業再生でありますとか、中小企業金融の円滑化、そして経営力の強化、また、地域の利用者の利便性の向上といった、そうした視点で地域密着型の金融機能を向上させてもらいたい。こうした期待は、中小企業には非常に強くあると思います。

信頼できる金融行政の確立に向けて

――「金融改革プログラム」では「信頼できる金融行政の確立」が掲げられています。信頼の確立に向けては、どのような課題があるのでしょうか。

伊藤 これからの金融行政の基本方針として、私は、行政が市場の規律を補完する“審判”の役割に徹することが重要だと思っています。そのためには各種の規制を総点検して、いらない規制は撤廃していくことが大切です。

その一方で、利用者の方々が不測の損害を被ることがあってはいけませんので、利用者保護を徹底していくルールや枠組みを、しっかりつくり上げていくことが金融行政の大きな使命だと考えています。

そうした中にあって具体的な課題として、1つには金融行政の透明性を向上させること。またもう1つは、私どもは権限を与えられた官庁ですから、権限を行使する際には説明責任を果たすことだと考えています。

また行政の電化、例えば金融庁への届出や申請をインターネットを通じてできるようにするなど、金融行政の効率を高めるとともに、行政コストの低減を図っていきます。

4月、いよいよペイオフ解禁を拡大

――「金融改革プログラム」の実施とともに、この4月からはペイオフ解禁が拡大されます。これについて、大臣のお考えを聞かせてください。

伊藤 4月に予定通りにペイオフ解禁を拡大したいと思っております。このことによって利用者の方々においては金融機関の選別が進み、また、金融機関の方々は一層緊張感を持って経営基盤の強化や収益力の向けて努力していくことが期待されすので、そのことで金融システム全体の効率性が向上していきます。ペイオフ解禁拡大は、日本の金融システムが公的資金に頼らない、自立した、国際的にも平常時日状態になったことを明らかにするものです。

ただ一方で、これからは自己責任原則を前提とした上で、利用者の方々の選択というものを大切にした経済社会になっていきます。ぜひ金融機関の方々には分かりやすく丁寧な情報開示を進めていただきたいと思っておりますし、私どももそうした環境を整備する努力をしていきたいと思います。例えば金融庁でも、『預金保険制度Q&A』というペイオフについてのパンフレットを作成し、財務局を通じて広く利用者の方々に、ペイオフの趣旨や意義というものを理解していただこうと活動しております。

――最後になりますが、今回の「金融改革プログラム」やこれまでの金融改革への取り組みから国民に伝えたいメッセージがあれば、お話しいただきたいのですが。

伊藤 金融システムの安定化のために今日までさまざまな努力を続けてまいりました。そしていま金融をめぐる局面は大きく変わろうとしております。これからは利用者を重視した金融行政を展開することによって、日本の金融システムの活力というものを大きく引き出したいと思っております。

――ありがとうございました