伊藤達也がメディアに登場しました!

「週刊金融財政事情」巻頭インタビュー

「週刊金融財政事情」2005.1.31号

特集金融改革プログラム

伊藤達也金融担当大臣に聞く

金融再生に向け改革の手綱は緩めない
金融行政は市場規律を補完し“審判”に徹する

金融改革プログラムの発表は、金融行政の軸足が「金融システムの安定」から「活力」へと変わりつつあることをあらためて印象づけた。
金融サービス立国の実現は可能なのか、そのために金融機関に求められる自助努力は何か、金融監督当局と金融機関の関係はどう変わっていくのか。
伊藤達也金融担当大臣にプログラム策定の狙いを聞いた。

フェーズは変わりつつあるがまだ通過点

――「産業と金融の一体再生」と金融再生プログラムなど、この間の一連の施策についてどう評価しているのか

不良債権問題の背景には借手である企業の問題がある。その企業サイドの過剰債務、過剰設備、過剰雇用といった「三つの過剰」が発生しており、これらをどのように是正し競争力を回復していくかが産業麺の課題だった。そこで政府はまず企業再生のインフラ整備を進めてきた。
たとえば産業再生法の抜本改正や倒産法制の改革に取り組み、同時にセーフティーネット充実策も講じてきた。

一方、金融面では企業再生プログラムを策定することで金融改革を進めてきた。このプログラムでは三つの枠組みを掲げ、その一つとして「新しい企業再生の枠組み」を盛り込んだ。ここでは産業再生機構の活用が謳われ、これまでは処理がむずかしかった案件についても対応可能な環境を整備した。

こうした一連の取り組みが奏功し「産業と金融の一体再生」はかなり進捗したと思う。しかし、残る最大の課題は、景気回復の兆しをいかに中小企業や地域経済に浸透させていくかということだ。引き続き地域経済の再生・活性化に向けた取組みや中小企業金融の円滑化を一層進めていかなければならない。

――金融システムはいまどのような局面にあると認識しているのか

いままでのような緊急対応の局面から、将来のより望ましい金融システムを目指す未来志向の局面へとフェーズが変わりつつある。

そうした局面を迎えているなかでも、金融システムを安定化させるべく、いままさに金融再生プログラムを実施している最中であり、現時点ではまだ最終目標に向けての通過点にすぎない。したがって、金融再生に向けて改革の手綱を緩めてはいけない。

金融行政は市場規律の補完へ

――わが国の金融システムはなお10兆円近い公的資金によって支えられているとの見方もできるが

資本注入行でも資本を増強する局面から公的資金を返済する局面へと移りつつある。不良債権問題が正常化していくなか、資本注入行も利用者のニーズを的確にとらえ、それに対応した金融サービスを提供し、さらに不良債権問題を二度と起こさせないよう再発の防止に努めていく必要がある。そのためにはリスク管理体制の強化だけではなく、収益力の向上やコーポレートガバナンスの確立が非常に大切だ。

そうした取組みを進めることで、結果として公的資金が早期に返済されるような経営努力というものを強く期待したい。

――この間は危機対応ということで、金融当局はある程度民間金融機関の経営に介入せざるをえない場面があったが、今後はそのスタンスを変えていくのか

そのとおり。金融システムを巡るフェーズが転換していくなかで、今後の金融行政は市場規律を補完していく「審判」の役割に徹することが必要だ。そして、民間金融機関が創意工夫のもとで、多様で良質な金融商品やサービスを提供できるような「フィールド(競技場)」をしっかり整備していく。こうした金融行政について、国民からの信頼を高めていくために金融行政の行動規範(Code of conduct)を確立する。

ただ、私どもはやはり利用者を守り、国民のための金融行政を行っていく必要がある。金融システムを守るために、また利用者の方々を守るために必要であると判断したときには、ルールに基づきしっかり使命を果たしていく。

不足しているのは資本ではなく競争

――わが国の金融セクターの機能は欧米と比べて相当遅れてしまったのか

長く中小企業問題に取り組んできた私の経験に照らし合わせても、わが国の金融セクターは、高度な金融機能を発揮できる余地があると思う。

もはや金融セクターに資本が不足しているということではない。不足しているのは競争だ。世界中で消費者のニーズに応えた商品やサービスを提供している企業はもっと激しい競争をしている。こうした企業は熾烈な競争環境のなかで、顧客重視や利用者重視とはいったいなんのことかを真剣に考え、具体的な形にし経営改革につなげる取組みを不断に行っている。こうした状況と比較すると、金融機関も利用者ニーズに対応していくために、なお一層の競争を行うことが必要だ。

――わが国の金融セクターのポテンシャリティをどのようにみているのか

金融改革プログラムでは「金融サービス立国への挑戦」「国際的に最高水準の金融機能を利用者のニーズに応じて提供されることを目指す」といった目標を掲げたが、いままで不良債権問題の解決に向けて四苦八苦してきた金融セクターの方々にとっては、いきなり「世界最高水準」
といわれてもギャップがあるかもしれない。しかし、私はわが国の金融セクターがもっている潜在能力はきわめて高いとみている。

わが国の金融セクターは非常に魅力的で、今後日本が持続的に成長していくためにも大切な分野だ。いろいろな方が金融業へ参入し、利用者ニーズに応じた商品やサービスの提供を競い合うことが、潜在能力を引き出すカギだと思う。

――具体的にどのような金融機関に活躍してほしいと考えているのか

私は「金融サービス立国」という言葉のなかに二つの思いを込めている。

一つは利用者重視の視点をより明確にしていくということ、もう一つは、わが国における金融サービスのクオリティを向上させることだ。こうした取組みを通じて金融セクターの競争力を強化していくという考え方が「金融サービス立国への挑戦」にほかならない。

ただ、金融改革プログラムは政府が産業政策として金融セクターそのものを強化していくことを目指したものではない。われわれは利用者にとって満足度が高く、そして国際的にも評価されるような金融システムを「官」の主導ではなく「民」の力で実現していきたい。

――金融化企画プログラムでは、利用者重視のために販売チャネルの多様化やワンストップサービスの実現を謳っているが、利用者と直に接する現場の人達は、今後どのような能力が求められるのか

あらゆる金融商品や金融サービスを提供してくれる金融機関を望む利用者もいれば、特定の専門分野に特化してその分野で自分が望むものをしっかり提供してくれる金融機関を望む利用者もいる。どういうニーズに応えていくかは、まさに各金融機関の判断であり、金融行政が「こうあるべし」ということを示すことはすべきではないと思う。最も重要なことは、利用者の方々からみて魅力的な金融機関なのかどうかを自ら考えることだろう。

それをふまえたうえで、自分達に優位性や強みがある金融商品やサービスを誇りをもって提供する。その結果お客様からみて非常に満足度が高いサービスが提供されているという評価が与えられるような金融機能をぜひ発揮してほしい。

――金融改革プログラムではITの戦略的な活用が謳われているが、どのようなIT活用が必要なのか

金融機関のIT投資と収益の関係をみると、欧米の競争力のある金融機関の場合、IT投資に対しておよそ3、4倍の収益をあげているが、わが国の場合はそうしたパフォーマンスは実現されていない。わが国ではまだIT投資は「経費」であって、収益強化のための「投資」になっていないのではないか。繰り返しになるがわが国金融業の競争力は間違いなく強化できる。ただそのためには経営戦略の中でITをしっかり活用することが重要だ。

新リレバンでは個性的な機能強化計画を

――中小・地域金融機関に関しては現時点で問題点はどこにあり、新しいアクションプログラムではどう克服していくのか

03年3月に発表した「リレーションシップバンキングの機能強化に関するアクションプログラム」の要請に基づき、中小・地域金融機関は金融機能強化のためのさまざまな取組みに挑戦してきた。全体として経営改革や経営改善に向けた取組みは順調に進捗している。

そこでまず、現行のアクションプログラムを広く有識者の方々などに評価していただいたうえで新しいアクションプログラムの策定にあたる。方向性そのものは従来と変わりはなく、地域密着型金融をより深化・拡充していくことを目指したい。事業再生をはじめ中小企業金融の円滑化や経営力の強化を進めるだけではなく、地域の利用者の利便性向上を図っていく。

ただし、今度は地域の特性に基づき、個性的で魅力ある機能強化計画を策定してもらいたい。自分達の経営方針や経営実態をわかりやすく公表することは重要で、地域社会によって規律付けられて経営改善を進めていくという視点が必要だろう。

――中小・地域金融機関のなかには、なお不良債権比率も高止まりしているところがある。「地域における産業と金融の一体再生」に関しては依然として課題があるように思えるが。

確かに主要行と比べると不良債権比率は少し高い状況にある。しかし、中小・地域金融機関がアクションプログラムで要請された施策に取り組むことで健全性を示す指標も確実に向上している。産業再生という視点から地域銀行をみても、債務者企業の経営改善に向けた取組みが進んでおり、04年9月末現在で、地域金融機関の正常先を除く債務者の約2割に相当する約7300先がランクアップした。こうした取組みをさらに進めていくことが大切だ。

検査手続の指針を策定・公表へ

――金融再生プログラム下で主要行の資産査定の厳格化はかなり図られた。今後の金融検査の課題は何か

第1に、新たなリスクに対して検査でも的確に対応していく。たとえば、金融コングロマリット化や業態を横断した問題についてであり、証券取引等監視委員会や海外当局との連携もさらに深めていく。また、バーゼルⅡへの対応もしっかりチェックするような体制を整備していく。

第2に、金融行政における行動規範を確立するとしたが、その一環として、検査手続における指針を策定して公表していく。また、効率的で的確な検査を実現するため、検査場面でもITを積極的に活用していく。

第3に、民間金融機関が自ら経営改善に取り組むような仕組みを工夫していく。そのため、さまざまな観点から金融機関を評価し段階づけする検査評定制度を導入する。これによって効果的で選択的な行政対応を実現していきたい。

第4に、自己責任原則のもとでの内部管理体制の強化を促していく。そのために検査結果を受検金融機関へ従来以上にフィードバックしていきたい。とくにいくつかの金融機関で共通する指摘事項があった場合、それを定期的に各金融機関へ情報提供していく考えだ。