活動報告

ブレる首相と、改革なき増税がもたらす将来

消費税増税と財政再建が、参議院選挙の大きな争点となった。しかし、議論は深まらない。なぜか。数字ありきで中身については口を閉ざすやり方や、菅政権の経済財政運営に深刻な問題があるからだ。

第一に、議論に真摯に取り組もうという姿勢が政府与党に見られない。菅総理は政権発足後、予算委員会も開かず通常国会を強引に閉じた。国会の議論から逃げておいて、増税については「超党派」でと呼びかける。これでは「政治とカネ」や普天間を隠すための戦術かと疑いたくなる。

そもそも社会保障充実のための財源というなら、どのような社会保障制度にするのか全体像を示すことが政府与党の責任であろう。民主党が総選挙で主張した月7万円の最低保障年金を実現するためだけでも、20兆円の財源が必要になる。そうしたことを棚上げにしていては、意味ある制度改革の議論にはつながらない。

福田政権時代には、社会保障のあるべき姿を示した。たとえば、無年金者対策の充実、保育の待機児童解消、医療・介護の地域連携の強化と施設や従事者の大幅増などである。そして、そのために必要な財源は、消費税に換算すると3.5%になると明らかにした。

当時、超党派の政策論議を呼びかけたが、残念ながら民主党はこのとき応じなかった。議論から逃れ、選挙のときにあやふやな約束をし、後で実現できない理由を説明する。政治不信が高まりはしないかと心配になる。

さて、もう一つの深刻な問題は、デフレ下での増税の是非だ。経済学者として著名なレスター・サロー氏は、デフレ状態の日本で消費税増税が議論されていることについて、「クレージーだ。消費が減るだけで、不況を永遠に引きずることになる」と朝日新聞のインタビューに答えている。足もとで25兆円もの需要不足があるなかでの増税は、経済財政政策の最悪の選択だ。歴史を振り返ってみても、デフレ下で財政再建を成し遂げた国はない。

今後の財政運営について、政府は6月22日に重要な閣議決定を行った。名目3%成長を実現し、10年間で基礎的財政収支を黒字化すると約束したのだ。しかし、その目標を達成するために10年後に消費税5%分では足りなくなるという試算もあわせて出している。

それならなおのこと歳出改革に真剣に取り組まなければならない。しかし、民主党は事業仕分けの継続を言うだけで、分野別の歳出削減目標すら示していない。菅総理が「政治主導の見本」とする英国では、公務員人件費や社会保障の抑制など具体的な歳出分野の改革を示して、新政権は財政再建に取り組んでいる。民主党は国家公務員の2割削減というが、それは国家公務員を地方公務員に付け替えるだけの目くらましではないのか。このままでは、民主党のバラマキ政策を埋め合わせるためだけの増税になる。

今やらなければいけないのは、デフレ脱却、成長力の回復、公務員給与法の改正、社会保障番号の導入、政府資産の圧縮などである。すべての改革を3年以内の達成することを条件にした消費税増税でなければ、強い経済、強い財政、強い社会保障の実現はできない。今のままでは結局、経済は失速し、ギリシャのように大幅な増税と社会保障の切り下げに追い込まれてしまう。

猫の目のように菅総理の発言はブレている。それは、本気で改革をやりきるのだという信念が薄いからではないか。総理の覚悟が問われている。