活動報告

小泉改革の逆回転?亀井モラトリアム構想

亀井静香氏が小泉政権下の竹中平蔵氏と同じように郵政と金融を兼務する大臣に就任した。早速、「小泉・竹中のやった逆をやればいい」と、借金返済を3年間猶予するモラトリアム構想を打ち上げ、金融社会主義に向けての号砲を鳴らした。

元本の返済、場合によっては金利も、3年間猶予すれば、当然、借り手は大喜びだ。しかし、貸したお金が返済されなければ、銀行の財務は当然苦しくなる。民間の住宅ローン・中小企業向け融資は、約375兆円にのぼる。経営に与える影響は極めて大きい。また、その原資は預金だ。ならば、金融機関に対し、政府が公的資金の投入や政府保証など「国がいくらでも手を差し伸べよう」というのが、亀井構想だ。結局、そのツケが政府の借金となる仕組みだ。

確かに、中小企業の金融環境は、極めて厳しい。そして、なによりも仕事がない。その原因は、官の行き過ぎた規制にある。たとえば、悲惨な多重債務者を減らすことを目的とした貸金業規制法の改正は、零細企業に対する貸出を止めてしまった。耐震偽装を再発させないための建築基準法改正は、新規の建築を困難にし、仕事を奪い去った。当時の野党民主党の批判に政府自民党は抗しきれず、結果的に官僚のアリバイづくりに手を貸してしまった。

政治主導を政権交代の大義とするならば、今こそ経済の実態を政治家が直視し、行き過ぎた規制を是正することだ。リーマンショックから1年が過ぎ、世界は政府の介入からできるだけ早く手を引き有事の政策から脱却する出口戦略を模索している。にもかかわらず、日本は今頃、周回遅れで政府のさらなる介入の議論、つまり入口戦略を検討している。

新政権は「生活支援」を掲げ、鳩山首相は「今まで以上に消費を刺激する政策を行う」と言明した。なぜ日本で消費が低迷しているのか。欧米の家計の痛みは、サブプライム問題が震源であるのに対し、日本の問題はもっと根が深い。つまり急激な少子高齢化の進展とそれに追いつけない経済や社会の諸制度が複雑に絡み合う構造が成長力を低下させているのだ。

そして、ポスト金融危機の時代がスタートした。主役がG8からG20に替わり、米中そしてEUが世界経済をリードしようとしている。新しい潮流の中で日本はどういう成長国家を目指していくのか。成長力を強化していくまともな戦略を描かなければ、低成長に甘んじ生活水準は下がっていく。過剰な格差是正策や金融社会主義的な選挙ボケともいえる情報発信を繰り返しているだけでは、悪化する雇用問題を解決することはできない。

不況の圧力は日増しに高まっている。財務相や金融相の発言は円高や株安の材料を与え、新政権誕生の期待とは裏腹に市場の評価は上がらない。デフレが進む中、経済閣僚たちが景気への目配りもせず、好き放題の発言を繰り返していれば、市場は混乱し、ついには信認まで失うことになってしまう。早く司令塔を機能させ、政府としての景気認識を示し、地に足のついた経済運営をしていかなければならない。

細川連立政権は政府と与党の権力の二重構造が原因で自壊した。それを当時、官房副長官としてつぶさに見てきたのが鳩山首相だ。今度は、閣内の不協和音が政権のアキレス腱になるのか。「更迭すればいい。できっこない」とうそぶく亀井大臣。小泉改革の呪縛が、鳩山政権にもかかっているのか。反小泉で突っ走る暴れ馬の手綱をしっかり首相が握れるかどうか。政権運営の最初の関門になってしまったようだ。