活動報告

提言「ソーシャルベンチャー市場(社会的事業)の拡大に向けて」

「社会的事業に関する特命委員会」では、民の力によって社会的課題の解決を目指す、24のソーシャルベンチャーをヒアリングしてきました。そのほとんどが、事業本体は行政の補助金に依存することなく事業をしっかりと継続しており、ハッとさせられるような素晴らしいノウハウと工夫が蓄積されています。

また、事業性と社会性の両立を図り、公的支援からの自立を目指している起業家の振興であります。もちろん、どんな事業であっても、雇用確保など一定の社会性は有しているわけでありますが、子育て、農業・観光、まちづくりなどのテーマの中で、社会全体に裨益する取組になればなるほど、周囲の関係者を巻き込みながら事業モデルを設計していく必要があり、事業の自立化までに長い時間がかかります。多くのソーシャルベンチャーが、この長い時間軸の間に、補助金依存体質に陥る。これを如何に回避し、属人的能力やネットワークの弱い方でも、本分野にチャレンジしていただけるかが、今回の検討課題です。

中でも大きなテーマになったのは、取り組む事業の社会性の認知です。収益力ある事業体質を作ろうとすると周囲からの協力が得られにくくなり、他方で、収益力がなければ補助金依存体質に陥りやすくなる。成功事例のほとんどは、結果として補助金に依存しない事業モデルを確立していますが、いずれも、周囲の信頼を得るまでには相当の時間をかけて様々な苦労をしておられます。「社会に役立つ仕事をしたい」という思いから、この分野を志す若者やアクティブシニアは急速に広がりつつあります。そのブレークスルーを目指したいと思います。

このため、第一に、民主導で立ち上げたソーシャルベンチャーに対して、その事業の社会性を民間によって認定する仕組みの確立を提言いたします。欧米では、Benefit Corporationなどの形で、収益事業が内包する取組の社会性を、民間が認定し、その結果を政府も支援に活用する例が広がりつつあります。この場合、米国のNPOが認定する制度でありながら、国境を越えて約50か国、2000以上の企業に広がりを持ち、社会的投資市場確立の大きな推進力になっています。我が国の実情に即した認定の取組を、5ケースくらい、試行的に実施してみてはどうかと考えています。

第二に、自治体等の行政機関によるソーシャルベンチャーの効果的活用です。毎年度、厳密な公募に晒されるのは、地域や特定の社会的課題とじっくりつきあいたいと考える民間事業者にとって、大きなリスクです。業者の選定を極力早い段階で行い、年度をまたいで課題の解決を目指す、そういう事業執行は、現行制度下でも可能です。しかし、地元への説明責任や会計検査対策などから、自治体も楽な形を選びやすい。Social Impact Bondのような成功報酬型補助制度の普及も含め、そこに敢えてチャレンジする自治体の取組を、地方創生推進交付金などで支援してはどうかと考えています。

第三に、BID/TIDといったエリアマネジメントの普及です。欧米における、ダウンタウンの再生や観光市場の開拓では頻繁に使われている手法で、特定エリアの事業者が、共益的な負担金を出し合って、マーケテイングや販路開拓などを進める仕組みです。自治体にとって、特定エリアだけを集中的に支援するのは難しくても、特定エリアの関係者が自分たちで資金を出し合い進めるという取組に、フリーライダーを防止しやすい制度を整えることは可能だと考えます。

このほかにも、兼業促進をはじめとしたプロフェッショナル人材の獲得支援、特区制度の活用などを通じた規制の柔軟化など、事業環境整備方策は極めて重要だと考えています。

ソーシャルベンチャー市場(社会的事業)の拡大に向けて(概要)
ソーシャルベンチャー市場(社会的事業)の拡大に向けて(本文)