活動報告

長期的な政策の整合性確保が必要だ

竹中平蔵教授の日経新聞「経済教室」へのコメント第3弾である。3回目の今回は、「長期的な政策の整合性確保」について、私の考えを述べてみたい。

まずは、最近の財政運営に関する議論についてだが、中長期的な視点にかけた動きを懸念している。

このところの税収増と歳出削減効果により、基礎的財政収支の黒字化目標を前倒し、その先の目標設定の必要に言及する論議が散見される。しかしながら、これらは安易に足元の数字だけを見た、増税ありきの主張であり、中長期的な視点が欠けているといわざるを得ない。

行政サービスを維持しながら無駄を徹底して排し、効率化をはかることに、不断の努力を続けなくてはならない。にもかかわらず、増税論議に逃げることは、行政の無駄の削減に切り込む切っ先を鈍らせることになる。非効率な行政を温存したままの増税となれば、社会保障など真に必要とされる部分に適切にお金が回らないことになる。しかも、安易な増税は経済成長にもマイナスの影響を与える。今の日本にもっとも大切なことは、英国で170ヶ月連続の景気拡大、米国の事実上180ヶ月にわたる景気拡大に匹敵するような、息の長い成長を実現することだ。成長なくして社会保障の充実も、格差の是正もないのである。

雇用についても、長期的な政策の整合性が求められる。

現在、最低賃金を引き上げることを検討しているが、中長期的に整合する政策にしなければならないことは当然である。野党の一部からは、全国一律に最低賃金を1000円に引き上げるべきとの指摘もある。しかし、当然ながら生計費や事業者の支払能力には、地域差がある。東京は沖縄の標準的な生計費の1.5倍だ。仮に最低賃金を全国一律にすれば、かえって逆格差が生じる。また、たとえば高卒の初任給の水準は、東京は沖縄の1.3倍程度ある。全国一律に引き上げれば、地方の中小企業は事業継続が困難となり、3人雇っているところを2人に減らすか、工場を閉鎖して海外に出るという選択肢をとりかねなくなろう。格差是正どころか失業率アップ、国内産業空洞化に拍車をかける政策となってしまう。地方に明るい光が波及しかけているところなのに、それを閉ざすような政策を打ってはならない。真の弱者に手が差し伸べられるようにするためにも、社会情勢に細心の注意を払いつつ、経済全体を底上げしていく視点で政策を組み立てていくことが必要だ。

公務員制度改革についても、然りである。

省庁再々編の議論があるが、この議論を俎上に出す順番を間違えると、再々編の中で組織の防衛と拡大のために、霞が関の多くのエネルギーが使われてしまうことになる。21世紀型の行政のあり方はいかにあるべきか、その理念をまずしっかりと固めることだ。そして、国と地方のあるべき姿を描き、道州制も含め制度設計する中で、議論を詰めていかなくてはいけない。これは、アジェンダ設定に通じる話でもある。